根こそぎ移動させられる傷みが語られるには、それ相応の時間と、それを尋ねるひとの存在が必要とされる。
いまはもう年老いたかれらにカメラを向ける松林監督は、あの日、かれらが幼な子であったことを確かに看取る。だからかれらも、カバンひとつにすべての持ち物を詰め込んで移動が始まったあの日のことを、友だちが自分と遊んでくれなくなったあの日のことを、子どもの目をして語るのだろう。
「明日、ここを旅立つことになったの」と、幼ない子どもに語りかけるひとは、いまなお私たちの隣にいる。すべてのヘイトクライムに抗うために、無数のあの日といまを知るきっかけにしたい。

上間陽子教育学者・琉球大学教授

絡まり合う謎が一つずつ丁寧に解かれ、ブラジルのサントスと沖縄が時空を超えて結びつく様に興奮した。秀逸なミステリ的ドキュメンタリー映画だ。

高野秀行ノンフィクション作家

歴史は消えていく。だが、記録すれば消えない。
私たちは誰しも、入り混じった歴史の上に生きているのだと繰り返し教えてくれた。

武田砂鉄ライター

1人の人が興味をもって過去の忘れられたなにかを調べていくとき
それが誰かの救いになることがある
忘れられることのつらさ
言葉にできなかったことの重さ
気にもかけられずに放置された古い傷

これは一つの歴史的事件を追うドキュメンタリーであると同時に
松林監督の日系ブラジル移民たちへのケアが呼び寄せた幸福な出会いの記録でもある

寺尾紗穂文筆家・音楽家

これは絶対に語られるべき物語だ。手遅れになる前に、この映画がそれを何とか伝え残すことができたのは素晴らしいことである。
『オキナワ サントス』は近現代史の中で「忘れられた」事件を明らかにする、卓越した仕事を果たしている。

トニー・レインズ映画批評家

錦衣帰郷の夢を抱いて移民たちが上陸した港町サントスは、沖縄移民にとっても故郷沖縄への郷愁(サウダージ)をつのらせた場所。そこで起きた日系移民の強制退去という過酷な歴史の事実が証言者たちのインタビューから次々に明らかにされる。海外沖縄移民のヒストリーに新たな考察を与える貴重なドキュメンタリーだ。

前原信一元沖縄テレビディレクター/『ワールド・ウチナーンチュ 忘れ得ぬ人々』著者

隠匿された「過去」と出会い直すとき
怒りと誇りを胸に誰もが奮い立つ。
魂の尊厳を賭けた、心揺さぶる時間旅行。

三浦哲哉映画研究者

ブラジル移民たちの「希望の港」であったはずのサントス。それが突然の退去命令で「絶望の港」へ。いかに戦時下とはいえ、理不尽なスパイ容疑とは。それに重なる本土系移民からの内なる差別。そのトラウマを抱えブラジルの奥地で生きる移住者たち。幼児期の体験とその後の人生は、失われたマブイ(魂)を取り戻す人生でもあった。その証言が胸を打つ。「世界のウチナーンチュ」として輝く移民史の陰画がそこにある。今も世界中で起きている移民へのいわれなき差別や排除。「サントスの記憶」は決して過去の話ではない。

三木健世界のウチナーンチュセンター設置支援委員会共同代表、沖縄ニューカレドニア友好協会顧問、ジャーナリスト